大判例

20世紀の現憲法下の裁判例を掲載しています。

東京高等裁判所 昭和25年(う)5330号 判決

所論は、原審第四回公判調書には、公判に関与した裁判官の署名押印がないから、公判調書としての効力がなく、この点において原審の訴訟手続には、判決に影響を及ぼすことの明らかな法令の違反があり、原判決は破棄を免れないとの趣旨に解される。よつて案ずるに、刑事訴訟規則第四十六条には「公判調書には、裁判長が、裁判官書記とともに署名押印しなければならない。裁判長に差支があるときは、他の裁判官の一人がその事由を附記して署名押印しなければならない。地方裁判所の一人の裁判官又は簡易裁判所の裁判官に差支があるときは裁判所書記がその事由を附記して署名押印しなければならない。裁判所書記に差支があるときは裁判長が、その事由を附記して署名押印しなければならない」と規定しているが、記録を調べてみるに、原審における昭和二十五年六月十五日の第四回公判調書には、裁判所書記官補大村忠助の署名押印があるだけで、裁判官の署名押印がないことは、各所論指摘のとおりであり、又右裁判所書記官補の署名押印も、前示規則第四十六条第一項の場合のものであつて、同条第三項の場合のものでないことが、その記載自体によつて明瞭であるから、右第四回公判調書は、明らかに、前示規則第四十六条の規定に違反するものと言わなければならない。それで、このような場合における公判調書の効力については、直接法規上、何らの規定もないが、前示規則第四十六条の趣旨とするところは、ひつきよう、公判調書の正確性を保持することにあるものと解されるので、もし、同条の規定に違反し裁判官の署名押印を欠くような場合には、その公判調書の正確性を失うことになるから、かような調書は無効のものと解することが相当であると考えられる。してみれば、原審における前示第四回公判調書は、各所論のとおり無効のものと言わなければならない。そこで、更に進んで、右公判調書の無効が、判決に影響を及ぼすかどうかの点について考えてみるに、記録によれば、原判決は、その判示事実を認定するに際し、一、被告人らの原審公廷における供述、一、岡部春一作成の被害届、一、福田志郎作成の被害届、一、小泉良之輔の司法警察員に対する供述調書等の証拠を採用し、これらの証拠を他の証拠と共に不可分的にそう合して、判示事実を認定しているが、原審公判廷における被告人らの本件公訴事実に関する供述や、前示証拠書類に対する証拠調手続等のことは、いづれも、前掲第四回公判調書中に記載されているのであつて、これを除いては、右証拠書類につき、他に適法な証拠調手続が履践された形跡が全く認められないのであるから、右第四回公判調書が前段説明のとおり無効である以上、原判決が採用した前掲各証拠書類は、適法な証拠調手続が履践されたことを認められないため、これを採つて断罪の資料に供することはできない筋合であり、従つて、右公判調書の無効は、結局、判決に影響を及ぼすことが明らかであると言わなければならない。してみれば、原判決には、所論のような判決に影響を及ぼすことの明らかな訴訟手続の法令違反があるものと言うべく、各論旨はいずれも理由がある。

自由と民主主義を守るため、ウクライナ軍に支援を!